パリ協定は、地球温暖化を抑制するために2015年に採択された国際的な枠組みであり
世界各国が温室効果ガスの削減や持続可能なエネルギーの導入に向けて協力することを目的としています。
この協定は、産業革命以前の気温から気温上昇を2℃未満、さらには1.5℃未満に抑えることを目標としており
気候変動が地球規模で与える影響を緩和するために必要不可欠な取り組みとされています。
アメリカは、この協定の策定過程において大きな役割を果たし
当時のオバマ政権は世界第2位の温室効果ガス排出国としての責任を果たすべく、積極的な姿勢を示していました。
しかし、2017年にアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、「アメリカ第一主義(America First)」を掲げ、パリ協定からの離脱を発表しました。
この決定は国際社会に大きな波紋を呼び起こし
気候変動対策におけるアメリカのリーダーシップの喪失を懸念する声が相次ぎました。
この記事では、トランプ氏がパリ協定離脱を決定した背景とその理由、さらにその影響や評価について詳しく掘り下げます。
そして、トランプ氏の政策が国際社会やアメリカ国内に与えた影響を整理しつつ、気候変動対策におけるアメリカの今後の課題を考察します。
パリ協定の成立とその意義

2015年12月、フランス・パリで開催された
「第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」において採択されたパリ協定は
国際社会が気候変動に対抗するための歴史的な合意です。
この協定は、これまでの気候変動対策を進化させ
すべての国が温室効果ガス削減に取り組むことを義務づけた初めての枠組みとして位置づけられます。
パリ協定の主要な目的
- 気温上昇の抑制
- 産業革命以前と比べて、地球の平均気温の上昇を「2℃未満」に抑える。
- さらに、気温上昇を「1.5℃未満」に制限する努力を推進することを明記。
- 適応策と資金援助
- 気候変動の影響を受ける国々への支援(資金や技術移転)を重視。
- 先進国が途上国に対し、年間1,000億ドル以上の資金を提供する目標。
- 各国の自主的な削減目標(NDC)
- 各国は「国が決定する貢献(NDC)」として削減目標を自主的に提出し、5年ごとにその進捗を更新する義務がある。
アメリカの役割と貢献
パリ協定が成立するまでの過程において、アメリカはリーダー的役割を果たしました。
特に、オバマ政権は中国との共同声明を通じて
世界の2大排出国が歩調を合わせて温室効果ガスの削減に取り組む姿勢を示しました。
この声明は、他国に協定への参加を促す大きな後押しとなりました。
また、先進国としての責任を果たしつつ、途上国への資金援助や技術提供も積極的に推進しました。
パリ協定の意義
パリ協定は、従来の「京都議定書」などとは異なり、先進国だけでなく途上国を含めたすべての国が参加する普遍的な枠組みです。
これにより、国際社会全体で気候変動問題に取り組む基盤が整えられました。
また、各国が自主的に目標を設定する仕組みによって、柔軟性が高まり、多様なアプローチが可能となっています。
こうした背景を踏まえると、パリ協定は単なる環境保護の取り組みを超えて
地球規模での協調と責任を象徴する重要な合意といえるでしょう。
トランプ氏とパリ協定離脱の決定(過去)

ここからは過去の内容になります。その点を踏まえて参照してください。
2017年6月1日、ドナルド・トランプ大統領はホワイトハウスのローズガーデンで、アメリカがパリ協定から離脱することを正式に発表しました。
この決定は、世界中で議論を巻き起こし、アメリカ国内外で強い批判と支持の声が交錯しました。
ここでは、トランプ氏の離脱宣言の内容、その理由、そしてその背景について詳しく見ていきます。
離脱宣言の内容
トランプ氏は声明の中で、パリ協定がアメリカの経済に対して「非常に不公平」であると述べました。
また、協定を継続すれば、アメリカにとって「数百万人の雇用を失い、エネルギー産業に悪影響を与える」と主張しました。
トランプ氏は「私はピッツバーグ市民のために選ばれたのであって、パリのためではない」と述べ、自身の「アメリカ第一主義(America First)」の政策を強調しました。
トランプ政権が示した離脱の理由
- 経済的負担の軽減
トランプ氏は、パリ協定に基づく削減目標を達成するためには、アメリカの経済が深刻なダメージを受けると主張しました。特に、石炭産業や製造業の負担が大きく、GDPの減少や雇用喪失につながるとしました。 - アメリカ第一主義
トランプ氏は、パリ協定が他国、特に中国やインドなどの発展途上国に有利な条件を与え、アメリカが不当な負担を強いられる枠組みであると批判しました。また、他国が削減義務を軽減されている一方で、アメリカだけが高いコストを支払うことになると述べました。 - 化石燃料産業の保護
トランプ政権は、石炭や石油などの化石燃料産業を復活させる政策を推進していました。パリ協定の目標に従えば、これらの産業が制限され、アメリカのエネルギー独立が脅かされるとの懸念が示されました。 - 自主性の確保
トランプ氏は、パリ協定がアメリカの主権を侵害し、国内政策への国際的な干渉を招くと考えました。そのため、アメリカは自国に有利な条件で再交渉する必要があると主張しました。
国内外の反応
国内の反応:
トランプ氏の決定に対して、国内では賛否両論が巻き起こりました。
一部の州や都市、企業は離脱に反対し、独自にパリ協定の目標を追求する動きを見せました。
カリフォルニア州やニューヨーク州などのリベラルな州は、気候変動対策をさらに推進することを表明しました。
一方で、化石燃料産業や保守派の政治家は、トランプ氏の決定を歓迎し、経済的負担の軽減を評価しました。
国際的な反応:
国際社会では、トランプ氏の離脱決定に対して厳しい批判が集まりました。
欧州連合(EU)や中国を含む主要国は、パリ協定を支持し続ける姿勢を示しました。
また、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「Make our planet great again」という声明を発表し、気候変動問題に対する連帯を呼びかけました。
離脱の影響
トランプ政権によるパリ協定離脱の決定は、国際社会およびアメリカ国内にさまざまな影響を及ぼしました。
ここでは、その影響を国際的な側面と国内的な側面に分けて詳しく分析します。
国際的な影響
- アメリカの孤立化
パリ協定からの離脱は、アメリカを地球規模の気候変動対策の枠組みから事実上孤立させる結果となりました。アメリカがかつて果たしていた気候リーダーシップの喪失は、国際社会における信頼性の低下を招きました。 - パリ協定の揺らぎと再確認
アメリカの離脱決定は、パリ協定の効果や信頼性に疑問を投げかけることになりました。
しかし、その一方で、残された各国は協定への支持を再確認し、気候変動問題への取り組みを強化する動きが見られました。たとえば、EUは「欧州グリーンディール」と呼ばれる包括的な環境政策を策定し、気候中立(2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標)の達成を掲げました。
国内的な影響
- 州や都市の独自対応
トランプ政権による離脱にもかかわらず、アメリカ国内では州政府や都市、企業が独自にパリ協定の目標を支持する動きを見せました。
- 「We Are Still In」宣言:
カリフォルニア州やニューヨーク州を中心とした複数の州政府や主要都市が、「We Are Still In(私たちは依然として参加している)」という宣言を行い、気候変動対策への取り組みを継続しました。これにより、連邦政府の政策に反して、州レベルでの環境対策が進められました。 - 企業の積極的な姿勢:
アップル、グーグル、マイクロソフトといった大手企業は、自主的に二酸化炭素の排出削減や再生可能エネルギーの活用を進めました。これにより、トランプ政権の離脱決定にもかかわらず、アメリカ国内での環境保護活動が完全に停止することはありませんでした。
- 「We Are Still In」宣言:
- 化石燃料産業の復権と矛盾
トランプ政権は、石炭産業の復活や国内エネルギーの自給自足を掲げていました。しかし、実際には石炭需要は減少を続け、再生可能エネルギーのコスト低下により、エネルギー市場の構造が大きく変化していました。結果として、化石燃料産業の復興は限定的であり、トランプ氏の掲げた経済効果は実現しませんでした。 - 社会的分断の加速
パリ協定離脱の決定は、アメリカ国内の政治的・社会的分断をさらに深める結果となりました。環境問題を重視する進歩派と経済優先を訴える保守派の対立は激化し、気候変動問題が政治のイデオロギー対立の象徴となりました。
全体的な影響の評価
トランプ政権による離脱決定は、短期的にはアメリカ経済の特定分野を守ることを目的とした政策といえますが、長期的な視点では、気候変動対策の遅れによるコスト増大や国際的地位の低下を招く可能性が指摘されています。
アメリカ国内外での反応を見る限り、この離脱はパリ協定そのものを崩壊させるものではなく、むしろ気候変動問題への取り組みを強化する意識を高める結果にもつながりました。
バイデン政権による復帰とその意義

2021年1月20日、ジョー・バイデン大統領は就任初日にパリ協定への復帰を表明し、迅速に手続きを進めました。
これにより、アメリカは正式に協定に再加入し、トランプ政権下で失われた国際的な信頼の回復と気候変動問題への積極的な取り組みを示すことになりました。
バイデン政権による復帰の背景、意義、そして具体的な政策について詳しく解説します。
バイデン大統領の復帰宣言の背景
- 気候変動対策を優先課題に据える姿勢
バイデン大統領は選挙キャンペーン中から、気候変動を「地球的な危機」と位置づけ、パリ協定への復帰を最優先事項の一つとして掲げていました。また、気候変動問題を単なる環境政策にとどまらず、経済政策や外交政策とも結びつける包括的なアプローチを示していました。 - 国際的リーダーシップの回復
トランプ政権下で失われた国際的な信頼を取り戻し、アメリカが再び気候変動対策のリーダーとして振る舞うことを目指しました。特に中国や欧州連合が気候政策で主導権を握る中で、アメリカが国際競争力を高める必要性が強調されました。 - 国内外の圧力
トランプ政権時代のパリ協定離脱に対して、多くの州や都市、企業が独自に目標達成を目指していました。こうした国内の動きを踏まえ、連邦政府が再び中心的な役割を果たす必要がありました。また、国際社会からの復帰要請も大きな要因となりました。
再加入がもたらす意義
- 国際社会へのメッセージ
アメリカの復帰は、気候変動対策における国際的な協力体制を再び強化する象徴的な出来事となりました。特に、アメリカが再び合意に参加することで、他国に対してもより積極的な行動を促す効果が期待されました。 - 新たな経済成長の可能性
バイデン政権は、気候変動対策を経済成長の原動力と位置づけました。再生可能エネルギーやグリーンインフラの推進は、新しい雇用創出や産業発展をもたらす可能性を秘めており、バイデン氏はこれを「グリーンニューディール」の一環として実施すると表明しました。 - 温暖化防止への加速
世界第2位の温室効果ガス排出国であるアメリカが再び協定に参加することにより、地球規模での温暖化防止が加速する可能性があります。バイデン政権は2030年までに温室効果ガス排出を50~52%削減する目標を掲げ、国際社会と連携して具体的な対策を実施することを約束しました。
バイデン政権の具体的な政策
- クリーンエネルギーへの移行
バイデン政権は、石油や石炭などの化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めています。特に太陽光や風力エネルギーの開発に重点を置き、新しいエネルギーインフラの構築を目指しました。 - 国際協力の強化
バイデン政権は、主要排出国との協力を強化するために、気候変動問題に特化した国際的な会議を主催しました。また、途上国への資金援助を拡充し、地球規模の気候変動への取り組みを主導しています。 - 連邦政府のリーダーシップ強化
ジョン・ケリー元国務長官を「気候問題特使」に任命するなど、気候変動対策を担当するハイレベルなポジションを設置しました。これにより、政策実行のスピードアップと効率的な国際連携を図りました。
トランプ政権時代との対比
バイデン政権によるパリ協定への復帰は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」政策とは対極的なアプローチといえます。
トランプ政権が化石燃料産業を擁護し短期的な経済利益を重視したのに対し
バイデン政権は長期的な環境保護と経済成長の両立を追求しています。
この対比は、アメリカ国内の気候政策が大きく変化したことを象徴しています。
トランプ政権のパリ協定離脱をどう評価するか

トランプ政権によるパリ協定離脱の決定は、国内外で大きな波紋を呼び、賛否両論が分かれる結果となりました。
トランプ氏の決定に対する支持と批判の両面を整理し、政策的な視点でその総合的な評価を試みます。
トランプ政権の離脱を支持する声
- 経済的利益の重視
トランプ政権を支持する人々は、パリ協定がアメリカ経済にとって不利な枠組みであり、特に化石燃料産業や製造業が大きな影響を受けると指摘しました。離脱は、こうした産業を保護し、雇用を守るという意図があると評価されました。
- 支持派の主張:
パリ協定の目標を達成するためには、アメリカは巨額のコストを支払う必要があり、経済的な競争力が低下するとされています。特に、トランプ氏が強調した「アメリカ第一主義」の観点からは、協定の遵守が国益を損なうという考え方が広まりました。
- 支持派の主張:
- 自主性の確保
トランプ政権は、パリ協定がアメリカの政策決定権を制限する国際的な枠組みであると見なしていました。離脱を支持する人々は、アメリカが独自の政策を展開することで、柔軟かつ現実的なエネルギー政策を推進できると主張しました。 - 他国の削減義務の不均衡
パリ協定では、各国が自主的に削減目標(NDC)を設定する仕組みですが、トランプ政権は、中国やインドなどの発展途上国が実質的に優遇されていると批判しました。支持派は、このような不均衡を解消するためには、協定から離脱して新たな枠組みを模索すべきだと考えました。
トランプ政権の離脱を批判する声
- 気候変動問題への後退
批判派は、トランプ政権の決定が地球規模での気候変動対策を大きく後退させるものだと非難しました。アメリカは世界第2位の温室効果ガス排出国であり、その離脱は協定の目標達成を難しくするとされました。
- 国際社会への影響:
トランプ氏の決定により、他国が気候変動対策に対する取り組みを弱める可能性があると懸念されました。特に、アメリカのリーダーシップが失われることで、国際的な協力体制が揺らぐとの批判が相次ぎました。
- 国際社会への影響:
- アメリカの国際的信頼の低下
パリ協定離脱は、アメリカが国際社会での責任を放棄したと見なされ、多くの国々から批判を受けました。この決定により、アメリカが国際的な合意に対して不安定な存在であるという印象を与え、外交上の信頼を損なう結果を招きました。 - 国内の分裂を加速
トランプ政権の気候政策は、国内での意見対立をさらに深刻化させました。環境問題を重視する進歩派は、連邦政府の動きに強く反発し、州や都市、企業が独自にパリ協定の目標を追求するという分裂状態が生まれました。
総合的な評価
トランプ政権によるパリ協定離脱の評価は、その視点や立場によって大きく異なります。
経済的利益やアメリカの自主性を重視する立場からは一定の理解が示される一方で
気候変動問題に対する国際的な責任や長期的な視点では批判が強まっています。
トランプ政権の決定がもたらした最大の課題は、気候変動問題が単なる環境問題にとどまらず
政治や経済、外交を含む複雑なテーマであることを浮き彫りにした点です。
この決定を機に、国内外での気候変動対策への関心がさらに高まる一方、政治的な分断や国際的なリーダーシップの空白といった新たな課題も生まれました。
米(アメリカ)トランプ新大統領がパリ協定から再離脱か?

トランプ新大統領は20日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再び離脱する大統領令に署名しました。
トランプ氏は政権1期目にも米国を同協定から離脱させており、昨年の大統領選期間中にも同様の行動を公約していたことから、今回の離脱表明は広く予想されていました。
まだ大統領令に署名した段階なので、確定で離脱するわけではありませんが今後の流れを追わないといけないです。
その他の大統領令を紹介
WHOから脱退表明 大統領令に署名
トランプ新大統領はWHO=世界保健機関から脱退すると表明し、大統領令に署名しました。
WHOについて、トランプ氏は1期目の政権時に新型コロナウイルスをめぐる対応が中国寄りだと批判し、脱退することを国連に通知しましたが、バイデン前大統領が就任初日にこの方針を撤回していました。
アメリカはWHOへの最大の資金拠出国で、脱退すれば、WHOの運営に支障が出ることは避けられないほか、パンデミックなどに対する国際的な取り組みに影響が出るおそれもあります。
「前政権の破壊的で過激な大統領令などを撤回する」
アメリカのトランプ新大統領はワシントン中心部で行われたイベントで支持者を前に演説し「前政権の破壊的で過激な大統領令などを撤回する」と述べました。
そして、バイデン前政権時代に出された移民や環境、それに「DEI」と呼ばれる多様性などの理念に関するものを含む78の大統領令などを撤回する大統領令に署名しました。
まとめ

2025年1月20日、アメリカのトランプ新大統領は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再び離脱する大統領令に署名しました。
同氏は1期目の政権でもアメリカをパリ協定から離脱させた経緯があり、大統領選期間中に再離脱を公約していたため、今回の表明は予想されていました。
ただし、大統領令に署名した段階であり、離脱が確定したわけではないため、今後の動向が注目されます。
また、トランプ大統領は世界保健機関(WHO)から脱退する大統領令にも署名しました。
トランプ氏は1期目でも、新型コロナウイルス対応をめぐりWHOが中国寄りだとして脱退を通知しましたが、バイデン前大統領が方針を撤回していました。
アメリカはWHOへの最大の資金拠出国であり、脱退が確定すれば国際的なパンデミック対応に影響が出る可能性があります。
さらに、トランプ大統領は「前政権の破壊的で過激な大統領令を撤回する」と述べ、バイデン前政権時代の移民や環境、多様性に関する政策を含む78の大統領令を撤回する大統領令にも署名しました。
トランプ氏の今回の一連の行動は、前政権の政策を大きく転換し、自身の政策理念を前面に押し出すものとなっています。
今後、これらの大統領令が国内外にどのような影響を与えるかが注目されています。